平成20年新司法試験民事系第1問(民法)

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契約総則 - 契約の解除
賃貸借 - 民法上の原則
相続の効力 - 遺産分割

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[民事系科目]

 

〔第1問〕(配点:100〔設問1と設問2の配点の割合は,5.8:4.2〕)

  次の文章を読んで,以下の1と2の設問に答えよ。

 

Ⅰ Xは,Aに対し,Xが所有していたマンション1戸(以下「甲不動産」という。)を1000万円で売った(甲不動産については,専有部分と分離して処分することができない敷地利用権であることが登記されており,分離処分については考慮しなくてよい。)。代金は,契約締結時に600万円,その2か月後に400万円をそれぞれ支払うという約定であった。契約締結時に,AはXに600万円を支払い,甲不動産につきAを名義人とする所有権移転登記がされ,また,Aに対して引渡しがされた。

  Aは,Xとの前記売買契約締結の2週間後に,知人のY1に対し,甲不動産を賃貸して引き渡した。賃料は月額8万円,賃貸期間は2年間,目的は居住目的と定められた。Y1は,賃貸借契約を締結する際,Aに対し,権利金として16万円,敷金として20万円を,それぞれ交付した。

  Aは,Y1と前記の賃貸借契約を締結するに当たり,Y1に対し,転貸することとペットを飼うことを禁ずる旨口頭で説明し(なお,これらの事項は賃貸借契約書にも不動文字で印刷されていた。),Y1は,Aに対し,それらの点については十分了解した旨伝えた。一方,Y1はAに対し,場合によってはY1の扶養家族(配偶者と小学生の子一人)を呼び寄せて同居する可能性があることを伝え,Aはこれを了解していた。Y1の扶養家族は,Y1の配偶者の親の看病の必要からY1と別居していた。

  Y1は,単身で賃貸アパートに居住していたが,交通の便が悪いことから転居することを考えており,Aから甲不動産の話を聞いた際,甲不動産は自分独りで住むには広過ぎるとも考えたが,交通の便が良いことと,賃料がそれほど高くないことから,甲不動産を賃借することとし,前記の賃貸借契約締結に至ったものであった。Y1は,賃貸借契約締結の時点でXA間の売買の代金のうち400万円が未払であることは認識していた。

  Y1の叔父であるY2は,配偶者及び子二人(子はいずれも小学生)とともに,甲不動産近くの賃貸住宅で生活していたが,かねてから同住宅の賃料の支払が家計を圧迫しており,賃料が低廉な物件を探していた。そのようなときに,甥のY1が甲不動産を借りたことを聞きつけ,Y1に対し,甲不動産を貸してくれるよう求めた。Y1は,当初は,自分自身が甲不動産で生活したいことと,Aが転貸を嫌がっていたことから,Y2の申出を拒んでいたが,Y2から執ように求められ,結局,これに応ずることとし,自分は従前の賃貸アパートに住み続けることとした。

  以上のような経緯で,Y1は,Aから甲不動産の引渡しを受けた3週間後に,Aに無断でY2に甲不動産を賃貸して引き渡し,Y2はその家族とともに甲不動産での生活を始めた。賃料は月額8万円,賃貸期間は2年間,目的は居住目的,権利金は16万円,敷金は20万円と定められ,Y2は,権利金16万円及び敷金20万円をY1に交付した。

  Y1は,Y2と賃貸借契約を結ぶ際に,Y2に対し,甲不動産をAに無断で貸すことは,Aから禁じられていることを説明し,あわせて,Aに無断で貸したことが原因でY2が甲不動産から出て行かざるを得なくなったとしても,Y1としては一切責任を負わない旨説明した。Y2は,これらの点について承諾したという趣旨の「承諾書」と題する書面を作成し,署名押印の上,Y1にこれを差し入れた。なお,Y1はY2に対し,甲不動産の購入代金のうち400万円をAがいまだXに支払っていない事実を告げていなかった。

  その後,Aは,残代金400万円を約定の期日に支払うことができなかった。Xは,Aが残代金を支払う可能性はないと考え,甲不動産を取り戻すことを弁護士Lに依頼し,これを受任したLは,Xの代理人として,Aに対し,残代金の支払を催告し,その後も残代金の支払がなかったことから甲不動産の売買契約を解除する旨の意思表示をした。

  Aは,残代金を支払えなかった以上は,Xから売買契約を解除されたことはやむを得ないと考え,登記に関する必要書類一式をLに交付し,甲不動産のA名義の所有権移転登記については,前記の売買契約の解除を原因として抹消登記がされた。

  その後,Lは,Xの代理人として,Y1に対し,仮にXがY1との間の甲不動産の賃貸借契約における賃貸人になるのであれば,同契約を無断転貸を理由に解除する旨の意思表示をした。Lは,Y1とY2に対し,甲不動産の明渡しを求めたが,Y1とY2はこれに応じようとしない。

 

〔設問1〕 以下の設問⑴から⑶に答えなさい。

 ⑴ Xは,甲不動産の明渡しを得るために,Y1に対し,所有権に基づく返還請求をした。これに対し,Y1は次の反論をした。この反論が認められるかどうかを論述しなさい。ただし,Y1に対する賃貸借契約の解除については,論じなくてよい。

 (反論①)「Y1は,民法第545条第1項ただし書の第三者に該当し,甲不動産の賃借権につき対抗要件を備えているから,Xの請求には理由がない。」

 ⑵ Xは,甲不動産の明渡しを得るために,Y1に対し,賃貸借契約終了に基づく返還請求をした。これに対し,Y1は次の反論をした。この反論が認められるかどうかを論述しなさい。

 (反論②)「Y1は,甲不動産をAから賃借したのであり,XがAY1間の賃貸借契約を解除することはできないから,Xの請求には理由がない。」

 (反論③)「甲不動産は,Y2が使用しているものであり,Y1は甲不動産を占有していないのであるから,Xの請求には理由がない。」

 ⑶ Xが,甲不動産の明渡しを得るために,Y2に対し,所有権に基づく返還請求をしたところ,Y2は,反論として,「Y2は甲不動産の賃借人であるY1から賃借しているのであり,Y1Y2間の甲不動産の賃貸借は,Y1に対する賃貸人との関係で背信行為と認めるに足りない特段の事情が存在する。」と主張した。この主張のうち,「背信行為と認めるに足りない特段の事情」として,Y2が主張立証すべき具体的事実を指摘し,その理由を簡潔に説明しなさい。

 

Ⅱ 前記Ⅰの甲不動産については,その後,次のような事実経過があった。

  甲不動産の明渡しを求められたY2は,Xと交渉し,何とか甲不動産の使用を続けたいと懇請した。Y1も交えて相談した結果,Y2がY1に支払う賃料及びY1がXに支払う賃料をいずれも月10万円とし,Y2がY1名義で直接Xに支払うことにして,Xは,Y2への転貸を了解することとした。もっとも,X自身及びその配偶者であるBは,このころから加齢のため気力や体力の衰えを感ずるようになり,甲不動産をめぐる事務の処理を億劫に感ずるようになってきた。そこで,このように賃料を改訂してY2への転貸をXが了解したことを機に甲不動産の管理は,事実上,Xの唯一の子であるCが担うようになってきた。Cは,Xとその前の配偶者との間の子である。

  そうするうちにXが死亡したが,しばらくの間遺産分割はなされず,また,Y1及びY2がXの死亡を知る機会がないまま,賃料は,Y2がCに支払っていた。BとCの遺産分割協議が成立したのは,Xが死亡してから9か月後のことである。この遺産分割協議において,甲不動産をBが単独で取得するものとすることが定められたことから,Bは,Cに対し,Xの死亡後にY2から収受していた甲不動産の賃料相当額である90万円の支払を求めた。これに対し,Cは,甲不動産自体をBが取得することは遺産分割協議で定めたとおりであるが,遺産分割協議成立までの間に生じた賃料の扱いは別であると主張し,これに応じていない。

 

〔設問2〕

   BがCに対して前記90万円を支払うよう求めることができるかどうかを検討し,その結論及び理由を示しなさい。

  この点に関しては,相続財産(遺産)を構成する賃貸不動産について,相続開始から遺産分割までの間にそれを使用管理した結果として生ずる賃料債権は,「各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である」とする見解(最高裁判所平成17年9月8日第一小法廷判決・最高裁判所民事判例集59巻7号1931頁)がある。本問の検討に当たっては,どのように相続財産の範囲を考えるかという問題や,遺産分割の効力との関係などの問題に言及するとともに,上記の見解に対する評価も示しなさい。

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