平成26年新司法試験民事系第1問(民法)

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- 権利能力、同時死亡の推定
総則 - 物権の一般原則
債権の効力 - 債権不履行に基づく損害賠償
債権の消滅 - 相殺
債権各則(1)-契約 - 和解
不当利得 - 個別的な問題
相続の効力 - 相続の一般的効果

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〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,3:4:3〕)

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

 

【事実】

1.平成20年8月頃,Aは,妻であるBと一緒にフラワーショップを開くため,賃貸物件を探していたところ,Cの所有する建物(以下「甲建物」という。)の1階部分が空いていることを知った。

2.甲建物は10階建ての新築建物で,1階及び2階は店舗用の賃貸物件として,3階以上は居住用の賃貸物件として,それぞれ利用されることになっていた。また,甲建物は最新の免震構造を備えているものとして,賃料は周辺の物件に比べ,25パーセント高く設定されていた。

3.Aは,建物の安全性に強い関心を持っていたことから,Cに問い合わせたところ,【事実】2の事情について説明を受けたので,賃料が高くても仕方がないと考え,甲建物の1階部分を借りることを決め,平成20年9月30日,Cとの間で甲建物の1階部分について賃貸借契約を締結した。AC間の約定では,期間は同年10月1日から3年,賃料は月額25万円,各月の賃料は前月末日までに支払うこととされ,同年9月30日,AはCに同年10月分の賃料を支払った。この賃貸借契約に基づき,同年10月1日,CはAに甲建物の1階部分を引き渡した。

4.その後,甲建物の1階部分でAがBと一緒に始めたフラワーショップは繁盛し,Cに対する賃料の支払も約定どおり行われた。ところが,平成22年8月頃,甲建物を建築した建設業者が手抜き工事をしていたことが判明した。この事実を知らなかったCが慌てて調査したところ,甲建物は,法令上の耐震基準は満たしているものの,免震構造を備えておらず,予定していたとおりの免震構造にするためには,甲建物を取り壊して建て直すしかないことが明らかになった。

5.Cから【事実】4の事情について説明を受けたAは,フラワーショップを移転することも考えたが,既に常連客もおり,付近に適当な賃貸物件もなかったため,そのまま甲建物の1階部分を借り続けることにした。しかし,Aは,甲建物が免震構造を備えていなかった以上,賃料は月額20万円に減額されるべきであると考え,平成22年9月10日,Cにその旨を申し入れた。これに対し,Cは,【事実】2の事情は認めつつも,自分も被害者であること,また,甲建物は法令上の耐震基準を満たしており,Aの使用にも支障がないことを理由に,賃料減額には応じられない,と回答した。

6.Aは,Cのこのような態度に腹を立て,平成22年9月30日,Cに対して,今後6か月間,賃料は一切支払わない,と告げた。Cがその理由を問いただしたのに対し,Aは,甲建物の1階部分の賃料は,本来,月額20万円であるはずなのに,Aは,既に2年間,毎月25万円をCに支払ってきたため,120万円を支払い過ぎた状態にあり,少なくとも今後6か月分の賃料は支払わなくてもよいはずである,と答えた。

  これに対して,Cは,そのような一方的な行為は認められないと抗議し,Aに対して従来どおり賃料を支払うように催促したが,その翌月以降もCの再三にわたる催促を無視してAが賃料を支払わない状態が続いた。そこで,平成23年3月1日,Cは,Aに対して,賃料の不払を理由としてAとの賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

 

〔設問1〕 【事実】1から6までを前提として,次の問いに答えなさい。

   AがCによる賃貸借契約の解除は認められないと主張するためには,【事実】6の下線を付した部分の法律上の意義をどのように説明すればよいかを検討しなさい。

 

Ⅱ 【事実】1から6までに加え,以下の【事実】7から11までの経緯があった。

【事実】

7.平成23年5月28日,Aは,種苗の仕入れをするために市場に出かけた際に,市場の近くで建設業者Dが建築しているビルの工事現場に面した道路を歩いていたところ,道路に駐車していたトラックからクレーンでつり上げられていた建築資材が落下し,その直撃を受けたAは死亡した。このAの死亡時に,Bは妊娠2か月目であった(Bが妊娠中の胎児を,以下「本件胎児」という。)。

8.【事実】7の建築資材が落下したのは,Dの従業員であるEがクレーンの操作を誤ったためである。

9.Bは,B及び本件胎児がAの相続人であるとして,Dに対し,Aの死亡による損害賠償として,1億円の支払を求めた。Dは,Eの使用者として不法行為責任を負うことについては争わなかったが,損害賠償の額について争った。その後,BD間で協議が重ねられたが,Bは,Aが死亡し,フラワーショップの維持に資金が必要であることもあり,早期の和解の成立を望んだ。そこで,平成23年7月25日,Dは,Aの死亡による損害賠償について,Bと本件胎児がAの相続人であり,両者の相続分は各2分の1であることを前提として,「Dは,B及び本件胎児に対し,和解金として各4000万円の支払義務があることを認め,平成23年8月31日限り,これらの金員をBに支払う。B及び本件胎児並びにDは,BとDとの間及び本件胎児とDとの間には,本件に関し,本和解条項に定めるもののほか,何らの債権債務がないことを相互に確認する。」という内容の和解案をBに提示し,Bもそれに同意した結果,和解(以下「本件和解」という。)が成立した。Dは,同年8月31日,本件和解に基づき,8000万円をBに支払った。

10.Bは,平成23年9月13日,流産をした。Aには,本件胎児のほかに子はなく,両親と祖父母も既に死亡しており,相続人となるのは,BのほかはAの兄であるFのみであった。

11.Fは,平成23年11月25日,Aの相続人として,Dに対して損害賠償を求めた。Dは,【事実】9の本件和解があるものの,このFの請求を拒むことは困難であると考え,これに応じることとした。

 

〔設問2〕 【事実】1から11までを前提として,以下の⑴から⑶までについて,本件和解の趣旨を踏まえて検討し,理由を付して解答しなさい。なお,損害賠償に関しては,Aの死亡による損害賠償の額は1億円であることを前提とし,遺族固有の損害賠償は考慮しないものとする。

 ⑴ FのDに対する請求の根拠を説明した上で,その請求が認められる額は幾らであるかを検討しなさい。

 ⑵ Dは,Bに対して,本件和解に基づいて支払った金銭の返還を求めた。このDの請求の根拠として,どのようなものが考えられるか,また,仮にその請求が認められる場合,その額は幾らであるかを検討しなさい。

 ⑶ ⑵のDの請求が認められる場合,Bは,Dに対して,何らかの請求をすることができるか,また,仮にそれができる場合,どのような請求をすることができるかを検討しなさい。

 

Ⅲ 【事実】1から11までに加え,以下の【事実】12から18までの経緯があった。

【事実】

12.乙土地は,甲建物の敷地であり,平成24年初頭当時,Cが所有しており,Cを所有権登記名義人とする登記がされていた。また,この当時,甲建物の近くには,Cが所有する丙建物が存在していた。丙建物は,Cが甲建物の管理業務のために使用しており,Cを所有権登記名義人とする登記がされていた。

13.丁土地は,乙土地に隣接する土地であり,同じ頃,Gが所有しており,Gを所有権登記名義人とする登記がされていた。丁土地には,当時Gが個人で行っていた木工品製造のための工場が存在していた。

14.Gは,平成24年夏頃,木工品製造の事業を会社組織にして営むこととし,株式会社Hを設立して,その代表取締役となった。Hの設立の際,①Gは,丁土地の持分3分の1を出資し,同年9月12日,②Hへの所有権の一部移転の登記をした。

15.Gは,平成25年9月30日,高齢となったことから,Hの代表取締役を退任し,Hの経営から退いた。これに伴い,同日,③Gは,代金を780万円として,丁土地に係るGの持分3分の2をHに売却し,Hは,この代金として780万円をGに支払った。しかし,④このGの持分を移転する旨の登記はされていない。

16.Cは,平成26年2月7日,甲建物及び⑤丙建物をCの子Kに贈与した。しかし,⑥丙建物についてKへの所有権の移転の登記はされていない。丙建物は,乙土地に存在しているというのがC及びKの認識であったが,実際は,丁土地に存在していた。

17.その後,丙建物が丁土地に存在していることが明らかになったため,平成26年4月15日,Hは,Cに対し,丙建物の収去及びその敷地(丁土地のうち丙建物の敷地である部分)の明渡しを求めた。これに対し,Cは,丙建物は既にKに贈与しているという事実を告げて,Hの請求には応じられない,と答えた。そこで,同月20日,Hは,Kに対し,丙建物の収去及びその敷地の明渡しを求めた。

18.Kは,この請求を受けて,丁土地の登記簿を調べたところ,Hは丁土地について3分の1しか持分を有しておらず,Gが3分の2の持分を有している旨が記されていたことから,Hに対し,Hが丙建物の収去及びその敷地の明渡しを求めることができる立場にあるか疑問である,と述べた。

 

〔設問3〕 【事実】1から18までを前提として,次の問いに答えなさい。

   Hは,Kに対し,丙建物の収去及びその敷地の明渡しを請求することができるか。【事実】14から16までの下線を付した①から⑥までの事実がそれぞれ法律上の意義を有するかどうかを検討した上で,理由を付して解答しなさい。

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