憲法において、財産権に関する事例について、既得権型[国有農地売払]と制度形成型[森林法]とを区別する実益はどこにあるのでしょうか。前者がそもそも有していた権利が後の立法等により侵害された場合であるのに対して、後者がある制度そもそも存在している状態で財産権を取得した場合であるということ自体は理解できました。ですが、そのことが(答案上)その後の論理ないし結論にどのような影響を与えるかが分かりません。
既得権に対する侵害であれば、これに対する規制目的、規制手段を目的手段審査することになります。
他方、制度形成の場合、規制が観念できませんから、制度目的の正当性と、当該制度目的を構築するための手段として適正かが審査されます。
ただし、森林法判決は、制度形成の典型例ではありません。これは既得権侵害はないものの、憲法が保障している財産権の内容である一物一権主義に対する例外ですから、既得権侵害と同じように、規制目的と規制手段を目的手段審査することになります。
既得権侵害の場合と実益はかわりませんが、あくまでも、既得権侵害はないので原則は制度形成の問題であり、その立法裁量を例外的に限定するロジックであるということを理解しておくことが重要です。
ご質問をいただきありがとうございます。
以下、別講師からも回答がございましたため、お伝えします。
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「既得権型」「制度形成型」という区別は、判例理解のために便宜的に整理したものにすぎず、答案において型そのものから結論を導くべきではありません。財産権の規制に関する審査は、いずれの場合も、証券取引法事件大法廷判決が示した、財産権の性質・規制目的・規制態様等を踏まえた必要性・合理性の判断枠組みで検討することになります。
もっとも、両類型の区別は、財産権の内容の把握と審査基準の強弱に影響を与えるという点で実益があります。既得権型では、私人がすでに確定的に有していた具体的権利を後法が遡及的に奪う構造となるため、財産権侵害の問題が生じ、立法裁量は限定され、より厳しい審査が及びやすくなります。
他方で、制度形成型では、一定の制度の下で財産権が成立していることから、その制度に内在する制約を織り込んだ権利内容を前提に判断することになります。そのため、規制は財産権の侵害ではなく内容形成と捉えられ、29条2項の趣旨に照らし、立法裁量が広く認められ、緩やかな審査で合憲が導かれやすくなります。
これらの区別は、財産権の内容の捉え方と審査基準の強弱を調整するという点で、答案上重要な意義を持つといえると思います。