第3問(民事訴訟法)は、
設問1が通常共同訴訟と主張共通、
設問2が文書提出義務(技術・職業の秘密/弁護士の職務上の秘密)、
設問3が既判力・反射効・請求異議
と、いずれも重厚な論点から出題され、民訴好きには大満足な問題でした。
本問は、修習生とベテラン弁護士・裁判官との会話の形で、検討すべき筋を設問自身が丁寧に指示してくれています。裏を返せば、この指示に一つでも答え落とすと大きく失点します。会話文の一言一句が、そのまま答案の項目立てだと思ってください。
各設問とも課題1・課題2に分かれています。まず課題ごとに、何を問われているのかを正確に切り出すことが出発点です。
Xが、主債務者Y1(請負代金)と連帯保証人Y2(保証債務)を共同被告として訴えた事案です。両者は合一確定を要しないから、法40条の適用のない通常共同訴訟であり、共同訴訟人独立の原則(法39条)が働きます。
ここを出発点に、Y1のした主張がY2にも共通するか(主張共通)を検討します。
(1)合格ライン
・主張共通が認められる主張とは何か
肯定説においても、主張共通が認められるのは、共同訴訟人の一人がした攻撃防御方法のうち、他の共同訴訟人に有利な主張に限られる。不利益な主張(自白など)は、これを援用していない共同訴訟人に不利益を及ぼすことになり、共同訴訟人独立の原則に真っ向から反するから、対象とならない。
・(ア)の自白について
(ア)は、Y1が「本件契約の締結」及び「甲の完成」という請求原因事実を認めるものであり、Y1にとってもY2にとっても不利益な陳述(自白)である。不利益な主張は主張共通の対象とならないから、(ア)についてY2への主張共通は認められない。
・(イ)の相殺の抗弁について
(イ)は、Y1が損害賠償債権を自働債権とする相殺の抗弁であり、請負代金債権を消滅させて請求棄却を導く、Y1に有利な主張である。しかも、主債務が相殺により消滅すれば、付従性によりY2の保証債務も消滅するから、Y2にとっても有利である。
したがって、肯定説を前提とすれば、(イ)についてはY2への主張共通が認められ、Y2も相殺による主債務消滅を主張したのと同様に扱われる。
(2) 優秀レベル
・主張共通が「有利・不利」で切り分けられる理由を、共同訴訟人独立の原則(法39条)の趣旨(各共同訴訟人の意思・処分権の尊重)から説明する。
・(イ)の相殺は、Y1にとって請求棄却という利益を得る反面、自働債権たる損害賠償債権を失う不利益を伴う。この二面性を指摘し、単純に「有利な主張」と言い切れるかという留保を示せると、課題2の肯定説の問題点に自然につながる。
(3) 加点要素
・本件が法40条の必要的共同訴訟ではなく通常共同訴訟であること(連帯保証は合一確定を要しない)を、理由を付して明示する
・Y2が欠席し擬制自白が問題となり得る中で、Y2を勝たせるにはY1の相殺の抗弁を取り込む必要がある、という本問の構造を示す
(4) 減点要素
・(ア)の自白と(イ)の相殺を区別せず、両者を一律に主張共通の対象とする(又は対象外とする)
・必要的共同訴訟と誤認して法40条を適用する
・Y1がY2に当然補助参加したとする構成を用いる(設問が禁じた前提を外す)
設問は、否定説の根拠を「共同訴訟人独立の原則の趣旨をどう考えるか」から説き起こし、肯定説の問題点を「本件の事実関係も踏まえつつ」指摘せよ、と指示しています。抽象論で終えず、Y1の相殺という本件固有の事情に落とすことが求められています。
(1) 合格ライン
・否定説の根拠(共同訴訟人独立の原則の趣旨)
共同訴訟人独立の原則(法39条)は、通常共同訴訟において、各共同訴訟人が他の共同訴訟人に制約されることなく独立して訴訟を追行し、一人のした訴訟行為の効果は他に及ばないとするものである。その趣旨は、各共同訴訟人の訴訟追行の自由と意思・処分権を尊重し、各自に固有の手続保障を及ぼす点にある。主張共通を認めると、援用していない共同訴訟人の訴訟に、他人のした行為の効果が当然に及び、この趣旨に反する。否定説はこの点を重視する。
・肯定説の問題点(本件の事実関係を踏まえて)
肯定説によると、Y1の相殺の抗弁の効果がY2に当然に及ぶことになる。しかし、相殺はY1固有の自働債権(損害賠償債権)を犠牲にするものであり、これをY2のために当然に用いることは、Y1の意思・処分権を害する。
また、Y2は自ら何らの主張もせず欠席していながら、Y1の行為の利益だけを享受することになり、共同訴訟人独立の原則が守ろうとした各自の自己責任と相容れない。相殺の自働債権の存否はY1個別の事情であり、Y2が主張立証責任を負わない事項について、Y1の行為のみで結論を導く点も問題である。
(2) 優秀レベル
・肯定説の根拠(共同訴訟人間の実体関係の牽連性、統一的判断の要請、審理の重複回避)にも触れたうえで、それでもなお否定説が妥当とする筋を示す。
・L1が「中心的な問題点は弁論主義との関係というよりむしろ共同訴訟人独立の原則との関係」と述べている点を受け、主張共通の可否は、弁論主義(主張責任)の問題である以上に、法39条の趣旨の問題として整理する。
(3) 加点要素
・相殺の自働債権を失うというY1の不利益を、肯定説の問題点の中核として具体的に評価する
・Y2が欠席したまま利益だけを受けることの不当性を、自己責任・手続保障の観点から指摘する
(4) 減点要素
・否定説の根拠を、法39条の趣旨に遡らずに結論だけ述べる
・肯定説の問題点を、本件の相殺の事情に落とさず一般論で済ませる
Zの所持する本件図面等(甲の原型物の設計図面・作業工程表)の文書提出義務が問題です。中心は「技術…の秘密」(法220条4号ハ、197条1項3号)と、弁護士L1が所持する写しについての「職務上知り得た事実で黙秘すべきもの」(同項2号)です。判例が多数引用されているので、どの判例をどこで使うかの交通整理が肝要です。
(1) 合格ライン
・判断基準(平成18年・平成20年判例)
職業の秘密(法197条1項3号)に当たる情報であっても、直ちに証言・提出の拒絶が認められるわけではなく、そのうち保護に値する秘密についてのみ拒絶が認められる。保護に値する秘密に当たるか否かは、その秘密の公表によって生ずる不利益(秘密の主体が被る不利益)と、真実発見及び裁判の公正(当該証拠の必要性)とを比較衡量して決する(平成18年判例・平成20年判例)。
・本件図面等への当てはめ(提出を拒める方向で)
本件図面等に記載された情報は、Zの主力製品の製造にも応用される部外秘の技術であり、公開されればその社会的価値が下落し、Zの事業活動が困難になる(平成12年判例の技術の秘密に該当)。開示によるZの不利益は大きい。
他方、Y1は、修理業者への照会やXの工程表の提出要求など、他の手段によって欠陥原因の立証を試みる余地がある。両者を比較衡量すれば、本件図面等は保護に値する秘密に当たり、Zは提出を拒むことができる。
(2) 優秀レベル
・比較衡量にあたり、証拠としての必要性の程度(欠陥の原因がZ工程かX工程か判然としない中で、本件図面等がどの程度立証に不可欠か)を具体的に評価する。
・平成12年判例の技術の秘密の意義(公開により社会的価値が下落し活動が困難になるもの)と、平成18・20年判例の保護に値する秘密(比較衡量)との関係を、二段階の判断として整理する。
(3) 加点要素
・Zの技術が他の主力製品にも応用され部外秘であるという本件事実を、不利益の大きさの評価に用いる
・Y1にとっての代替手段の有無を、必要性の評価に反映させる
(4) 減点要素
・技術の秘密に当たれば当然に提出拒絶できるとして、比較衡量(保護に値する秘密の絞り込み)を落とす
・平成18・20年判例が示した基準を、事実に当てはめず規範の引用で終える
弁護士L1が所持する写しについて、「職務上知り得た事実で黙秘すべきもの」(法220条4号ハ、197条1項2号)該当性が問題です。
設問は、課題1で論じた3号の「保護に値する秘密」の基準と、平成16年判例の「黙秘すべきもの(保護に値する利益)」の基準とを、同一と解すべきか異なると解すべきか、両号の趣旨とその異同を踏まえて論じよ、と指示しています。当てはめは不要です。
(1) 合格ライン
・両号の趣旨
法197条1項3号(技術・職業の秘密)は、秘密の主体自身の社会的・経済的活動を保護する趣旨である。
これに対し、同項2号(弁護士等が職務上知り得た秘密)は、弁護士等と依頼者との信頼関係を保護し、依頼者が安心して秘密を打ち明けられるようにする趣旨である。したがって、両者では保護しようとする法益が異なる。
・同一と解すべきか、異なると解すべきか
本件図面等の情報そのものは技術の秘密に該当するから、その保護に値する性質は3号と同じ基準で判断すれば足りる、という考え方もあり得る。
しかし、2号の趣旨は依頼者との信頼関係の保護にあり、秘密の主体の利益を直接に保護する3号とは基準の視点が異なる。平成16年判例も、2号の「黙秘すべきもの」を、依頼者本人が秘匿につき客観的に保護に値する利益を有するものと定義しており、判断の基軸を依頼者の利益に置いている。
したがって、両者の判断基準は同一ではなく、異なると解すべきである。
(2) 優秀レベル
Qが指摘するとおり、3号と同一基準で判断することは、2号の趣旨(信頼関係の保護)と整合しないことを正面から論じる。技術の秘密性という情報の内容だけで2号該当性を決すると、依頼者の信頼関係保護という2号固有の視点が失われる。
もっとも、本件図面等にはZの秘密のみが記載され、依頼者Xの秘密は含まれていない。2号が依頼者の利益を基軸とする以上、その当てはめの局面で、依頼者Xに保護に値する利益があるかが別途問題となり得ることを示唆する。
(設問は当てはめ不要としているので、指摘にとどめる)
(3) 加点要素
・2号と3号の保護法益の違い(信頼関係の保護/秘密主体の活動の保護)を明確に対比する
・平成16年判例の定義(依頼者本人の客観的に保護に値する利益)を、2号が依頼者を基軸とすることの根拠として用いる
(4) 減点要素
・両号の趣旨の異同に触れず、結論だけ(同一・別異)を述べる
・設問が不要とした本件図面等の当てはめに立ち入り、肝心の基準論が薄くなる
保証人Y2の請求異議の訴え(本件後訴)において、主張⑴(主債務者Y1勝訴判決の援用)と主張⑵(Y1の相殺による保証債務消滅の主張)の当否が問われます。
鍵は、それぞれの主張が援用する事由が、Y2訴訟の既判力の基準時の前に生じたのか後に生じたのか、という一点です。ここを取り違えないでください。
(1) 合格ライン
・既判力による遮断の根拠
既判力による遮断(基準時前に主張できた事由を後訴で主張できないこと)が必要とされる根拠は、確定判決による紛争解決の実効性を確保し、同一紛争の蒸し返しを防ぐ点にある。そして、これが正当化される根拠は、当事者に前訴で主張立証の機会(手続保障)が与えられていたこと、すなわち自己責任に求められる。
・反射効を認めても援用できない理由(昭和51年判例)
仮に、主債務者勝訴の確定判決の効果を保証人が援用できる(反射効を肯定する)としても、その主債務者勝訴判決が、保証人敗訴判決の基準時より前に生じた事実(無権代理による主債務の不成立)を理由とする以上、保証人は、自己の敗訴判決の既判力によって、その基準時前の事由を主張することを遮断される。
保証人は前訴で主債務の不成立を主張立証する手続保障を与えられていたのだから、これを怠って敗訴が確定した以上、後から主債務者勝訴判決を援用して蒸し返すことは許されない。反射効は、保証人が既に受けた確定判決の既判力に劣後するのである。
(2) 優秀レベル
・反射効の一般的な肯否には争いがあることに触れつつ、本課題は「仮に反射効を認めても」という前提での議論であることを明示し、争点を援用の可否(既判力との優劣)に絞る。
・主張⑴が援用するY1訴訟の請求棄却判決は、後述のとおり相殺(基準時後の事由)を理由とする点で昭和51年判例の事案(基準時前の無権代理)と異なる。この違いが主張⑴と主張⑵の分かれ目になることを、課題2への布石として示す。
(3) 加点要素
・遮断の「必要性」(蒸し返し防止)と「正当化根拠」(手続保障・自己責任)を区別して説明する
・反射効と既判力の優劣という形で、昭和51年判例の理解を整理する
(4) 減点要素
・反射効の肯否の一般論に深入りし、援用の可否という本筋を落とす
・既判力の遮断の根拠を、必要性と正当化根拠に分けずに漠然と述べる
主張⑵は、Y1の相殺権の行使により保証債務が付従性で消滅したことを、本件後訴で主張するものです。ここで効いてくるのが、相殺という形成権の基準時後の行使を扱った昭和40年判例です。
二つの判例と本件との距離を測ってください。ここが民訴の醍醐味です。
(1) 合格ライン
・昭和40年判例との異同
昭和40年判例は、前訴の基準時前に既に相殺適状にあったにもかかわらず相殺権を行使せずに敗訴した被告が、基準時後に相殺の意思表示をして請求異議の事由とすることを認めた。相殺は意思表示によって初めて効果を生じる形成権であり、基準時後の意思表示による主債務消滅は基準時後の新事由だから、既判力に抵触しない。
本件でも、Y1の相殺による主債務の消滅は、Y2訴訟の基準時より後のY1訴訟において生じており、基準時後の新事由である点で、昭和40年判例と共通する。もっとも、本件のY2は自ら自働債権を有して相殺したのではなく、主債務者Y1の相殺による主債務消滅を援用する点で、昭和40年判例とは立場が異なる。
・昭和51年判例との異同
昭和51年判例は、主債務者勝訴判決が保証人敗訴判決の基準時『前』の事由(無権代理)を理由とする事案であった。
これに対し、本件の相殺による主債務消滅は、基準時『後』に生じた事由である。
したがって、本件は昭和51年判例の射程外であり、既判力による遮断を受けない余地がある。
・主張⑵の当否・結論
相殺による主債務の消滅は、Y2訴訟の基準時後に生じた新事由であるから、既判力によって遮断されず、Y2は本件後訴の異議事由として主張することができる、と解するのが素直である。
もっとも、次の各点を考慮して結論を導く必要がある。
①Y2は保証人にすぎず、欠陥の原因がX工程かZ工程かの情報を持たないから、本件訴訟において損害賠償債権の要件を主張立証することは実際上期待できなかった(民法457条3項による履行拒絶の可能性はあったが、その立証も同様に困難であった)。この点は、基準時前に主張しなかったことにY2の帰責性が乏しいことを示し、援用を認める方向に働く。
②Y2がY1に任せて欠席したという応訴態様は、自己責任として援用を否定する方向にも働き得るが、主債務者に対処を委ねたことには一定の合理性もある。
③弁論が分離され、Y2訴訟が先に終結したため、Y2はY1訴訟における相殺の結果を待って主張する機会がなかった。これは援用を認める方向に働く。
以上を総合すれば、主張⑵は認められると解するのが妥当である。
(2) 優秀レベル
訴訟上の相殺の意思表示だけでは実体法上の効果がまだ生じていないという設問の前提を用い、Y2が基準時前に「相殺による主債務消滅」を主張することはそもそもできなかったことを、遮断効が及ばない根拠として明示する。
さらに、相殺の自働債権(損害賠償債権)は前訴の訴訟物の外にあって既判力(114条1項)が及んでおらず、訴訟物たる権利関係そのものの瑕疵ではないから、その消滅は前訴で遮断されない、という客観的範囲の観点も添える。
(相殺が基準時後の新事由となる理由を一段深く基礎づけられる)
民法457条3項の履行拒絶の可能性があったこと(=基準時前に全く手段がなかったわけではないこと)を踏まえてもなお、その主張立証がY2に期待できたかを、考慮点①として具体的に評価する。
主張⑴(基準時前の事由・遮断される)と主張⑵(基準時後の事由・遮断されない)とを、既判力の基準時を軸に対照して結論づける。
(3) 加点要素
・考慮点①〜③(立証の期待可能性・応訴態様・弁論の分離)を、それぞれ援用の可否のどちらに働くかを明示して評価する
・Y2が保証人であるという地位に由来する情報の偏在を、帰責性の評価に反映させる
(4) 減点要素
・主張⑴と主張⑵を区別せず、いずれも既判力に抵触するとして一律に否定する
・相殺が基準時後の新事由であることを見落とし、昭和51年判例の結論をそのまま当てはめる
・設問が挙げた考慮点①〜③に触れず、結論だけを述べる
2026年7月29日 加藤洋一
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